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大津家庭裁判所 昭和46年(少)54号 決定

少年 G・N(昭二七・一〇・二〇生)

主文

本件戻収容中請を却下する。

少年を中等少年院へ送致する。

理由

一  (イ) 戻収容申請の理由

昭和四六年四月一日付近畿地方更生保護委員会作成戻し収容申請書別紙二記載のとおりであるからこれを引用する。

(ロ) 罪となるべき事実

司法警察員作成の昭和四五年一二月一一日付および四六年六月一〇日付各少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるからこれを引用する。

なお、少年は審判廷において右後者の送致事実を否認するが、その主張事実自体極めて合理性に欠け不自然である上、同人の捜査段階、調査段階での自供は同人しか知りえない事実に基き、詳細を極め、被害者の供述とも一致ししかも被害者より犯人として断定されている点より右否認供述は信用しがたく、罪証は右送致一件記録により十分である。

二  上記(ロ)に対する適条

窃盗につき刑法第二三五条、強盗強姦未遂につき同法第二四一条、二四三条

銃砲刀剣類所持等取締法違反につき同法第二二条、三二条一項

三  要保護性

調査官古賀幸子作成昭和四六年四月二三日付および四六年七月一二日付調査票(事実欄を除く)記載のとおりであるからこれを引用する。

四  以上少年には新たな保護事件が上記のとおりあり、これによつても少年の要保護性は上記の如く十分であり、これに基き主文の如く中等少年院送致することとする限りにおいて、事件戻し収容の目的は右新保護事件の審理およびその結果により十分に達せられて余りあるものというべきであるから右申請の当否の審理をなす必要がないので却下することとする。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 杉本昭一)

(別紙二)

申請の理由

本人は昭和四五年九月二四日、加古川学園を仮退院し、以来、大津保護観察所および京都保護観察所の保護観察を受け、昭和四六年一月一二日以降、大津保護観察所の保護観察下にあるものであるが、仮退院に際し、誓約した遵守事項に違背して、その保護観察中、

〈1〉昭和四五年一〇月上旬頃、就労先を無断で家出して、所在をくらまし、その後も正当な理由なく再三家出外泊を繰返し、

〈2〉同年一〇月上旬頃、就労先○野方家人の現金八、〇〇〇円位を窃取し、

〈3〉昭和四六年二月初旬頃、実父の現金一七、〇〇〇円位を窃取して飲酒酩ていし、警察官に保護され、

〈4〉同年同月末頃、自宅前民家に侵入してレコードプレイヤー一台を窃取し、

〈5〉同年一月初旬頃からは殆ど定職に就かず、無為徒食を続け、小遣銭に窮しては、これを実父に無心したものである。

以上の事実は、大津保護観察所長提出の戻し収容申出書、同添付の保護観察事件記録、同庁保護観察官古賀安英作成の本人並びに実兄G・Oに対する質問調書等により明白であり、〈1〉の事実については、犯罪者予防更生法第三四条第二項に規定する法定遵守事項第四号並びに同法第三一条第三項により定められた本人に対する特別遵守事項第六号に、〈2〉〈3〉〈4〉の事実については、同法定遵守事項第二号並びに同特別遵守事項第五号に、〈5〉の事実については、同法定遵守事項第一号および同特別遵守事項第三号に夫々違背するものである。

本件を案ずるに本人は知能低く魯鈍級の精神薄弱者で、保護者並びに担当保護司の指導に全く従わず一定の仕事にまじめに働かず、家出放浪を繰返し徒遊を続けていたものであり、保護観察中の遵守事項は、何一つとして守られていないものである。本人には、勤労意欲並びにまじめな社会生活を営もうとする自力更生への力が未だ充分に涵養されていない上に、保護者の保護能力に多分の問題があり、充分な指導監督がなされないためであり、これを放置するならば、本少年の性格に鑑み益々怠惰、放浪性は助長され、その上女性に対する関心も漸く高まりつつある折柄、虞犯の度は極めて高いものと思料される現状であり、保護観察によつては、更生を図ることは困難である。

今後、少年院に収容して力強い矯正教育を施し心身の鍛練と職業訓練を加え、以て自力更生の意欲と力を体得せしめることが肝要であり、他に良策は見当らないと思料する。

よつて当委員会は審理の結果、犯罪者予防更生法第四三条第一項を適用して、本人を満二〇歳に達するまで少年院に戻し収容する旨の決定を申請する。

司法警察員作成の昭和四五年一二月一一日付少年事件送致書記載の犯罪事実

被疑少年G・N一八歳は、昭和四五年一〇月一〇日、午前一時頃、京都市左京区○○○○○○○町×荘一階管理人室にひそかに侵入し鏡台の上に置いてあつた被害者、京都市左京区○○○○町×番地○野○右○門五八歳所有にかかる女物茶色ワニ皮財布一個時価一、五〇〇円(在中金六、〇〇〇円)を窃取したものである。

司法警察員作成の昭和四六年六月一〇日付少年事件送致書記載の犯罪事実

一、被疑少年はかつて一度見たことのある女性方に侵入し、金品を強奪し姦淫せんことを企て、手造りの短刀を携行し昭和四六年六月七日午前〇時三〇分ごろ、京都市右京区○○○○○○町×××農業兼竹材業○田○次(四四歳)方離れ二階六畳の間へ不法に侵入し、被害者である○次の長女○田○子(二〇歳)が就寝中を奇貨としてタンスを物色現金二、〇七三円、ビニール定期券入れ一個を窃取、被害者が物者に気づいて目をさますや、所携の短刀を同女の頬に突きあて「静かにせい、騒ぐと殺すぞ、今そこで一人殺してきた、金あるか」と脅迫、その反抗を抑圧し財布一個現金六千円在中を強取したが、これを被害者に戻した後手足をそれぞれ緊縛し反抗を更に抑圧したうえ「キッスをさせよ、俺の女になれ」と肩に手をかけ強いて姦淫せんとしたが階段を上つてくる物音に気づき未遂に終つたものである。

二、被疑少年は業務その他正当な理由がないのに、昭和四六年六月七日午前〇時三〇分ごろから同日午前一時四〇分ごろまでの間、京都市右京区○○○○○○町×××農業兼竹材業、○田○次四四歳方離れ二階六畳の間において刃体の長さ一九センチメートルの鉄製あいくち類似刃物を携帯していたものである。

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